2015年4月29日水曜日

(36)アキレスと亀



2008.9.30 07:59

 北野武監督の最新映画「アキレスと亀」が公開されています。映画は、芸術への夢をあきらめきれない画家の物語ですが、タイトルの「アキレスと亀」は数学の有名なパラドックスから付けられたものです。
 紀元前450年ごろに活躍した古代ギリシャの哲学者、ゼノンは、俊足のアキレスは先を行く鈍足の亀に永遠に追いつけないというパラドックスを次のように力説しています。「アキレスが前方にいる亀を追いかけ始める。アキレスが、亀がもともといたところに着いたとき、亀はその間にわずかだが歩みを進めアキレスより前を歩いている。次にアキレスが、再び亀のいた位置に着いたとき、亀はその位置より少しだけ前に進んでいる。さらに。これが永遠に繰り返されるのだから、アキレスは永遠に亀に追いつくことはできない」という説です
ゼノンのこの説明のどこがおかしいのでしょうか。 私が今まで聞いた中で、数学者、矢野健太郎先生の説明が一番明快だったので、それを紹介しましょう。
 アキレスは100メートルを10秒(10メートル/秒)、亀はその1/10の速さ(1メートル/秒)とし、100メートル前にいる亀を追いかけるとします。すると、2人の距離は1秒間に10-1=9メートルずつ縮まるので、実際には、アキレスは亀に100÷9=100/9秒後に追いつきます。
 一方、ゼノンの言い分は「アキレスが100m進むと亀はそのとき10m先にいる。アキレスが10m進むと亀は1m前にいる。さらに1メートル進むと。だから、アキレスは永遠に亀に追いつけない」というものです。ゼノンの説明では距離に着目していますが、時間の方に目を向けてみると次のようになります。
 「アキレスが1 0 0 メートル進むのに10秒を要す。さらに10メートル進むのに1秒を要し、さらに1メートル進むの0.1秒。よって、この無限に続くプロセスにかかる時間は、10+1+0.1+0.01+0.001+。これは無限等比級数の和の公式から、=100/9秒である」
 すなわち、ゼノンの言っていることは、 秒未満の状況を描写しているにすぎず、アキレスが亀に永遠に追いつけないという証明にはなっていないのです。(東海大教育開発研究所長)

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