2015年4月29日水曜日

(37)球の詰め込み



2008.10.7 08:21

 「横5センチ、縦8センチの長方形の中に、直径1センチの円を最大何個詰め込むことができるか」。これは、1950年代に出版されたパズルの本にも載っている問題です。図1のように規則正しく詰め込むと40個です。ところが、図2のようにすれば、円は41個詰め込めます。図1では円の中心が正方形状に並ぶ配置をしています。一方、図2では円の中心が正三角形状に並ぶ配置になっています。実は、円の中心が正三角形状に並ぶ配置が、円を一番効率的に詰め込む方法だということが20世紀前半に証明されているのです。
 これを3次元(空間)に拡張すると、「同じ大きさの球を空間に詰め込むための最密な配置は何か」という問題になります。この問題について、ドイツの天文学者、ケプラーが「どの球の周りにも12個の球が囲む配置で空間を埋め尽くした場合が答えだ」と1611年の冊子に、証明を書かずに記述しました。ケプラーはザクロの種子の観察によってヒントを得たそうです。
 ザクロの実の中にたくさん入っている種子は、球形をした小さい種子が大きくなるにつれ、互いに押し合いへし合いを始めます。その結果、最密な状態をつくり1個の種が12個に囲まれる配置になったというのです。すなわち、図3で、1個の球の周りに6個の球が取り囲み、さらに上下から3カ所のくぼみに球が入り込んだ配置となっています。
 この主張が正しいか否かをめぐって、その後400年近く、数学者たちの挑戦が続きました。ついに1998年、米国のヘールズによって、コンピューターで調べあげるという力ずくの方法で、ケプラーの主張が正しいことが証明されました。
限られた空間にできるだけたくさんのものを詰め込むという最密充填(じゅうてん)問題の応用が、各分野で研究されています。特に、通信分野では顕著でした。例えば、ひとつの信号をある空間の中の1点で表せるとしましょう。信号同士の距離が近いと誤読率が高まります。信号の誤読率を低く抑えるために信号の間隔が最低1ミリ必要だとしましょう。すると、1辺10センチの立方体にできるだけ多くの信号を表す点を配置する問題は、この立方体に直径1ミリの球をなるべく多く詰め込むという数学上の問題に置き換えられます。
 現在、3次元どころか、もっと高い次元において球の詰め込み問題が研究され、通信工学の分野で著しい成果が上げられています。(東海大教育開発研究所長)

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